2024年の春、京都市山科区の静かな住宅街に新たな清水焼の工房 「nagusa」 が誕生しました。
岡山で生まれ、絵を学び、京都で陶芸を修めた的場美幸(まとば みゆき)さん。
創作の道を進む中で、「うつわ作りこそが自分の表現」と決意しました。

工房の名前 「nagusa」 は「名無し草」に由来します。日常にそっと寄り添うようなうつわを作りたい──そんな思いが込められています。
京都の窯元で何年も修行を積み、満を持して自身の工房を構えた的場さん。
広々とした空間には真新しい道具が整然と並び、ロクロを回す手は迷いなく、淡々と作業をこなします。

nagusaのうつわには、どこかエスニックな雰囲気が漂います。その創作の原点は、ベトナムにルーツを持つ 「安南手」 の焼き物にあります。
安南手とは陶器に呉須や鉄絵で模様を描き、灰釉をかけて仕上げる技法。

- 安南染付輪花酒呑(ベトナム 15世紀)
- 画像の出展:Colbase
絵のにじみやムラさえも味わいとなる、素朴で気取らない焼き物です。その自由な表現は、的場さんの作風とも自然に重なりました。
絵とデザインを学んできた的場さんは、安南手の名品を単に模倣するのではなく、自身のクリエイティブをそこに落とし込みます。


懐かしさの中に新鮮さが宿る、現代の感覚を反映したうつわへと昇華させています。
時を超えて愛され、日常で使われてきたうつわが、やがて芸術品としての価値を持つこともある。

そうした歴史を紡いできた、名もなき陶工たちのように、今日も的場さんは静かに作陶に励んでいます。
新しい工房から生み出されるうつわは、きっとこれから多くの人に愛され、日々の暮らしに寄り添っていくことでしょう。
nagusa 的場美幸 略歴
平成30年 尾道市⽴⼤学 美術学科 卒業
令和2年 京都府⽴陶⼯⾼等技術専⾨校 卒業
その後 京都市内の窯元で修行
令和6年 京都市山科区で独立