専門家と考える乾山 4/4 ~乾山企画展の裏側とこれからの乾山~ 

インタビュイー:畑中章良 さん(MIHO MUSEUM 学芸部長)

「信楽—壺中の天」(1999)「乾山—幽邃と風雅の世界」(2004)、「古陶の譜—中世のやきもの」(2010)などの特別展を担当。企画立案された乾山料理写真集『美し(うまし うるはし)乾山 四季彩菜』は、「グルマン世界料理本大賞」写真部門でグランプリ(2006)とベスト・オブ・ザ・ベスト(2008)20年間のベスト・オブ・ザ・ベスト2015を受賞。

インタビュアー:横山雅駿(コトポッター店主)

 

Q.MIHO MUSEUM 伝説的な企画展の裏側

横山:ここまで学術的な乾山のお話しをお伺いしてきましたが、やはり畑中さんに一番お伺いしたいのは2004年の企画展「乾山—幽邃と風雅の世界」のお話しです。この企画展の開催にあたっては相当な労力をかけられたと思います。

畑中さん:この展覧会に至るきっかけが、MIHO MUSEUMの乾山コレクションなんですよね。まとまったコレクションがあったので、それと集められるものを見せた展覧会をしたいと創立者の小山美帆秀子さんに相談して、企画展に繋がっていきます。しかし、その間に9.11もあったりして、「飛行機で運べへんのちゃうんか」とか色々心配しましたね。

9.11・・・2001年9月11日 アメリカ同時多発テロ事件。

(「乾山—幽邃と風雅の世界」の図録本には海外の美術館やコレクターの名前がずらりと並ぶ。)

横山:海外からもたくさんの作品を借りてきたのですね。

畑中さん:そうですね。乾山の研究しているリチャード・L・ウィルソンさんがいて、誰にコンタクトを取るべきかを教えてもらいました。それで、海外にある乾山の作品を調査することになりました。

リチャード・L・ウィルソン・・・乾山研究の第一人者。企画展の図録本にも寄稿。           

横山:海外まで調べるのは大変そうですね。

畑中さん:3年くらいかかりました。その間にアメリカのダラスベル美術館から乾山を借りたり、世界2周くらいして各地に行って調査してきました。

横山:すごいですね。海外にも乾山の作品がたくさんあるんですね。

畑中さん:はい、ハワイにもデンマークにもありますよ。乾山の作品は世界各地の美術館で展示されています。いいコレクションを見つけても、もちろんすべての美術館が協力してくれるわけではなく、断られることもありましたよ。

横山:3年で世界2周…大変でしたね。

畑中さん:はい、でも面白かったですよ。行った先でいろいろ食べるものや見るものがあって、こういうきっかけがないと、なかなか行けないですからね。

横山:この企画展の時、私は中学生だったので、乾山のことも知らず見られなかったのが悔やまれますが、図録本として世界中の乾山の作品を見れるようにしてくれたことは凄くありがたいです。今でも参考に見ることが多いです。

 

Q.乾山と和食、現在も評価される乾山のうつわ

  • 画像:美し 乾山 四季彩菜 MIHO MUSEUM 
  • MIHO MUSEUM ショップ/通信販売で販売中 ¥2,200

横山:これも併せて作った本ですか?

畑中さん:はい、この本も作るために一年かけて準備しました。普段お付き合いがある辻留さんが言っていることが本当かどうかが気になっていました。この派手な器にどうやって料理を盛り付けるか、という点が。

辻留さん・・・懐石 辻留懐石料理の名門

横山:それで、実際に盛り付けてみた結果はどうでしたか?

畑中さん:実際盛り付けてみると、すごく料理を引き立ててくれるんですよ。それが本当にできるのかと思っていたのですが、実際にやってみると、その魅力に驚きました。MIHO MUSEUMは乾山の作品が多くあり、使えるうつわがたくさんあったので、四季折々の食材を使った写真集を作りました。

  • 画像:美し 乾山 四季彩菜 MIHO MUSEUM 
  • MIHO MUSEUM ショップ/通信販売で販売中 ¥2,200

横山:今でも乾山の写しのうつわは和食料理人に人気ですが、ホンモノの乾山を使って写真集を作るのはMIHO MUSEUMさんでしかできない企画ですね!展示と本作りを並行してやるのは大変ではなかったですか?

畑中さん:はい、展覧会が始まるまでは本作りに集中して、展覧会が始まった後に本を仕上げました。企画展の約2ヶ月後に出版されたのですよ。

横山:そちらにある賞状や盾はこの本が獲った賞ですか?

畑中さん:はい、写真で評価されて、同じ本で3回賞を取ったんです。

横山:すごい結果ですね!乾山のうつわと日本料理が世界にも認められたのですね。

畑中さん:そうですね。日本料理が世界的な流行になっています。20年前に出版した本ですが、今も評価され続けているのは驚きです。

    横山:しかし、貴重な乾山の作品に料理を盛るのは少し怖いですね…。重要文化財クラスでガラス張りのショールームで慎重に展示されているモノですから…。

    畑中さん:その通りです。醤油が染みたりする心配もありますから。盛り付けるときだけ器を使い、すぐに外すように配慮しました。

    横山:京都の老舗の料亭では乾山のうつわを所有しているところもあるようですが、一冊の本にできるくらい所蔵数を持ち、それに料理を盛りつける。本当にMIHO MUSEUMさんでしかできなかったことですね。

     

    • 画像:美し 乾山 四季彩菜 MIHO MUSEUM 
    • MIHO MUSEUM ショップ/通信販売で販売中 ¥2,200

    畑中さん:本当に貴重な経験だったと思います。こういった活動で乾山に興味を持ち、日本の料理や陶芸、文化を知ってもらえることができれば、大変うれしく思います。

    横山:乾山の企画展だけでなく、MIHO MUSEUMさんでは日本の文化や料理に関わる企画展を多く開催されていますよね。私たち現在の伝統工芸に携わる人にとっても大変勉強にさせてもらっています。今日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。

    畑中さん:ありがとうございました。

     

    畑中さんありがとうございした!

    いかがだったでしょうか。

    一時間半にわたりインタビューをして、乾山について詳しくお伺いしました。

    乾山の作品を多く見てきた畑中さんのお話しは学術的で面白く、大変参考になりました。

    このインタビューを通じて、これまで見えにくかった乾山の実像をお伝えできたかと思います。

    皆様もぜひMIHO MUSEUMに足を運んでみてはいかがでしょうか!

     

    専門家と考える乾山 < 1 > < 2 > < 3 > < 4 >

     

    MIHO MUSEUM

    • 営業時間:午前10時~午後5時(最終入館午後4時)
    • 休館日:HPの営業カレンダーをご覧ください
    • アクセス

     

     

    横山雅駿
    KOTOPOTTER 店主

    横山雅駿

    10年以上にわたり、京焼・清水焼はじめ伝統工芸品や陶磁器に携わっています。

    京都の窯元や陶芸家と連携し知見や審美眼を深めながら、新しい伝統工芸品の在り方を模索しています。

    2024年に京焼・清水焼専門のECサイトKOTOPOTTERを立ち上げました。

     

     

    尾形乾山の他の記事

      尾形乾山の生涯

      尾形乾山の生涯と足跡をめぐる

      今回は京都の乾山の足跡をめぐりながら、乾山の生涯を回想していきたいと思います。

      続きを読む
      尾形乾山の生涯

      京焼・清水焼の名工 尾形乾山とは

      京焼・清水焼を語る上で欠かせない歴史上の重要な陶工、尾形乾山(…)

      続きを読む
      ブログに戻る

      コメントを残す