ブログをご覧の皆様。こんにちは。
コトポッター店主の横山です。
現代まで続く京焼・清水焼の基盤を作った江戸時代の陶工・尾形乾山。
日本陶芸の発展に絶大な影響を与え、独自の世界観を陶芸で表現してきた陶工です。
コトポッター「京焼・清水焼の世界」では、これまで乾山に関わる記事をいくつか掲載してきました。
しかし、資料や作品を見るだけでは乾山の実像を伝えるのは限界があり、知識人に話を聞かなくては…と思っていました。
そこで、乾山の作品を多数所蔵・展示をされているMIHO MUSEUMさんに取材依頼をお願いしたところ、なんと快く承諾いただけました。
コトポッターは老舗でもない怪しいカタカナ名のECサイトですし、突然の依頼だったので、正直インタビューはお断りをいただくと思っていましたが、懐が深い美術館さまです!
今回のインタビューで乾山の実像と魅力を深堀りできればと思います。
MIHO MUSEUM
- 営業時間:午前10時~午後5時(最終入館午後4時)
- 休館日:HPの営業カレンダーをご覧ください
- アクセス
MIHO MUSEUM 畑中さんに聞く"乾山"
2024年12月中旬、取材の許可をいただき、京田辺の事務所から車で一時間ほどのMIHO MUSEUMさんに行ってきました!
MIHO MUSEUMさんは滋賀・信楽の自然あふれる山の中に立地しており、所蔵品の質の高さと豊富さは言わずもがなですが、施設の建築美も素晴らしく、美術館まるごと芸術を堪能できます。
インタビューに応じていただいたのは2004年に催された伝説的な企画展「乾山~幽邃と風雅の世界~」を企画・立案された学芸部長・畑中 章良(あきよし)さん。
国内や海外に所蔵されている乾山作品を見てきた畑中さんは、陶工・尾形乾山をどのように見ているのでしょうか。
インタビュイー:畑中章良 さん(MIHO MUSEUM 学芸部長)
「信楽—壺中の天」(1999)「乾山—幽邃と風雅の世界」(2004)、「古陶の譜—中世のやきもの」(2010)などの特別展を担当。企画立案された乾山料理写真集『美し(うまし うるはし)乾山 四季彩菜』は、「グルマン世界料理本大賞」写真部門でグランプリ(2006)とベスト・オブ・ザ・ベスト(2008)20年間のベスト・オブ・ザ・ベスト2015を受賞。
インタビュアー:横山雅駿(コトポッター店主)
横山:お忙しいところ、突然ご連絡にも関わらずインタビューに応じていただきありがとうございます。
畑中さん:いえいえ。
横山:2004年の企画展「乾山~幽邃と風雅の世界~」。この企画展の時に出された図録本は収録されている作品数が多く、また詳細な解説も掲載されいて、とても参考にしています。乾山写しを作陶されている窯元さんでもこの本を見られている方が多い印象です。
- 画像:乾山~幽邃と風雅の世界~ MIHO MUSEUM
畑中さん:お役に立てているようであれば何よりです。この企画展を行うのはとても労力をかけましたので。
横山:そのあたりも後ほどお伺いできればと思います。今日はよろしくお願いします!
Q. MIHO MUSEUMの乾山作品の所蔵について
横山: MIHO MUSEUMさんは、乾山で単独の企画展を行えるほど、立派なコレクションをお持ちですよね。集められている乾山作品の特徴について教えていただけますか?
畑中さん: 特徴ですね。こちらでは、他のジャンルの作品もそうですが、系統だって博物館的に時間軸やテーマごとに集めるという方針ではないんです。
横山: なるほど、どのような方針で収集されているのでしょうか?
畑中さん: 創立者の小山美秀子(みほこ)さんが「ピンと来た作品」を中心に集めています。いろいろな作品を見て回る中で、「これだ」と感性に響いたものを選び続けてきた歴史があります
- 銹絵百合形向付 所蔵:MIHO MUSEUM
- 画像:乾山~幽邃と風雅の世界~ MIHO MUSEUM
横山: 感性に基づいて選ばれた作品ということですね。
畑中さん: はい、だからこそ質の高いものが揃っていると思います。日本のものも、お茶道具をはじめいろいろなジャンルにわたりますが、美的な感性に触れたものが集まってきています。
- 色絵椿文向付 所蔵:MIHO MUSEUM
- 画像:乾山~幽邃と風雅の世界~ MIHO MUSEUM
横山: 乾山作品もその一つということですね。
畑中さん: その通りです。もともと創立者が所蔵していた作品もありますが、美術館をオープンするにあたって、陶芸作品だけでなく書や絵画も集める方針で、点在しているものをひとまとめにコレクションする形をとりました。それが現在の乾山コレクションの基盤になっています。
横山: 創立者の目利きと情熱が、この素晴らしい乾山コレクションを作っているんですね。
Q. 現在の乾山作品について
横山: 気になるのが乾山の作品は個人所蔵だったものが市場に出たりすることはあるのでしょうか?骨董品の市場を見に行くことがありますが、乾山当人の品を見ることはこれまでなかったです。
畑中さん: オークションなどでまれに出てくることはありますが、偽物も多いんです。プロの目で見れば違いがわかりますが、模倣品をそれなりに似せて作ることも可能です。
横山: 乾山のような有名な陶工の作品となると、偽物が出回るリスクも大きいですね。畑中さんは多くの乾山作品をご覧になってきたと思いますが、真贋のポイントはどこにあるのでしょうか?
畑中さん: 乾山の場合、特に「字」が鑑定のポイントになります。焼きの雰囲気や技術は模倣できても、文字を正確に再現するのは非常に難しいです。角皿や長形皿に描かれた和歌や漢詩などを見ると、字の筆致や勢いが顕著に現れます。
- 銹絵牡丹図角皿 所蔵:MIHO MUSEUM
- 画像:乾山~幽邃と風雅の世界~ MIHO MUSEUM
横山: 字が重要な鑑定ポイントになるんですね。
畑中さん: 乾山自身、字に強いこだわりを持っていたと思います。兄・光琳のような絵の才能には太刀打ちできないと考え、焼き物に注力していた。しかし、字に関しては自信があり、独自のこだわりを持っていたのではないでしょうか。乾山が窯印をハンコではなく筆で書いたのも、そのこだわりの表れだと思います。
- 銹絵十体和歌短冊皿 所蔵:東京国立博物館
- 画像:Colbase
横山: 字や和歌を含めて、乾山の作品には独特の個性が感じられますね。
畑中さん: まさにそこが乾山の作品の面白さです。
Q. 乾山の作陶について
横山: 乾山は陶芸だけでなく、絵や書など幅広い分野で作品を残していますが、実際に土を触ったり、窯に入れるといった作業にはどのくらい携わっていたのでしょうか?
畑中さん: ※鳴滝に築窯した当初は、本人が全力で取り組んでいたと思います。ただ、京都のものづくりは基本的に分業制です。乾山も呉服屋の生まれですから、職人たちの手を借りながら仕上げるという感覚を持っていたはずです。
※鳴滝・・・乾山焼はじまりの地ともいえる場所。京都中央から見て「乾(北南)」に位置することから乾山と名乗ったと言われている。
- 画像:鳴滝の乾山窯跡 撮影:横山雅駿
横山: 現代の個人陶芸家というより、プロデューサー的な立場だったということでしょうか?
畑中さん: そうですね。乾山は全体の監修をしながら、職人を使って作品を仕上げていました。その結果、乾山焼の形が作られていったのだと思います。
横山: ある程度、量産も行われていたのですか?
畑中さん: はい。需要が高まると、複数の職人の手を借りる必要がありました。乾山は仁清の息子を養子に迎え、一緒に作陶していたことも知られています。
横山: 乾山の関与範囲をどう捉えるかは難しいところですね。
畑中さん: そうですね。乾山本人がどれだけ直接関与したかを重視する狭い見方もあれば、乾山焼全体を広く捉える見方もあります。その辺りは研究者の間でも議論が続いています。
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