寸分のミスも許されない陶の表現
結晶釉に魅せられて
何軒もの窯元が点在する歴史ある窯業の町、泉涌寺地区。
狭く入り組んだ道と連なった軒先は古い京都の街並みをそのまま残す。
代々窯業を営む前田五雲氏の工房も泉涌寺地区にある。
(工房の建物の写真)
工房は間口からは想像もできないような奥行きがあり、作陶の作業ごとにスペースが設けられている。
歴史を感じさせる古格がある工房だ。
入り組んだ工房には大小さまざまな道具や、身の丈を超えるような大きな機械も並んでいる。
すべての道具が使い込まれ、五雲氏の作陶の複雑さと過酷さを偲ばせる。
五雲氏が取り組む技法は「亜鉛結晶」。
特殊な調合がされた釉薬が窯の中で焼成中に変化し、華とも雲とも表現される煌びやかな結晶を生み出す。
綿密な計算と徹底した温度管理、釉薬に対する深い知識が必要な技法だ。
(焼成前、特殊な釉薬がかけられた湯呑)
通常の陶磁器よりも数段分厚くかけられた釉薬。
高温の窯の中で溶けて流れ落ち、ある温度帯から美しい結晶が発現する。
(結晶釉の画像)
結晶釉のその煌びやかで可憐な姿からは想像がしがたいが、作陶の現場はとてもハードだ。
美しい作品は、近道のない努力から生み出される。
前田五雲 陶歴
1957年、京都 東山 泉涌寺に生まれる。
1980年に同志社大学 美学芸術学科を卒業後、父・正範のもと、陶芸の道に入る。花器・香炉などの焼き物を中心に意欲的に制作。
独自の美を追求し始める。
1991年に河合誓徳先生に御指導を賜り、 展覧会に出品、初入選を果たす。
以後、日展や新日本工芸会など数多の賞を受賞し、先代から受け継いだ五雲窯にて現在も陶芸作品を制作中。