日々の暮らしに溶け込む
シンプルな美と温もり。
南丹市日吉町の静かな里山に工房を構える陶芸家、長元宏氏。
1959年生まれの彼は、陶工専門校を卒業後、御室焼の名窯・和善陶苑での修行を経て現在の場所で独立した。
その道のりには、陶芸への尽きることのない情熱と探究心が息づいている。
工房に足を踏み入れると、まず耳に届くのはロクロが静かに回る音。
湿り気を帯びた粘土が彼の指先に呼応し、少しずつその姿を現していく。
シンプルで魅力的なうつわを生み出す背景には、和善陶苑時代に培った高度なロクロの技術がある。
京焼・清水焼のうつわは、特に料亭や割烹などで使用される和食器において、極めて高い精度が求められる。
ロクロのわずかな寸分の違いも許されない世界だ。
そのような厳しい環境で鍛えられた技術を持つ長元宏氏は、現在では減少しつつある伝統技術を継承する貴重な存在と言える。
手触りから素材の状態を読み取りながら、長元氏はひたむきに作品へ命を吹き込んでいく。
穏やかな表情を浮かべつつも、その眼差しには深い集中力が宿る。
彼の作品はシンプルでありながら、どこか特別な温かみを感じさせるものばかりだ。
その秘密のひとつが、独自に調合された釉薬にある。時には調合した釉薬どうしを混ぜたり、焼き方を変えることで新しい色彩を生み出す。
窯の中で火の力を借り、釉薬が表情を変えていくその瞬間。
長元氏は長年の経験と勘を頼りに、新しい色味のうつわを生み出している。
彼の作品には、まるで自然が作り出したような豊かなグラデーションが映し出されている。
彼の作るうつわは、手に取ると驚くほど使いやすいと評判だ。
洗練されたデザインと実用性が融合し、毎日の食卓をさりげなく彩る。
洗練されたフォルムと複雑な色彩は日常にそっと寄り添う魅力がある。
静かな工房で生まれる一つひとつの作品には、彼の哲学—“日々の暮らしに寄り添う”—が込められている。
長元宏氏はこれからも、自らの手で作り出す温もりを大切にしながら、多くの人々の生活を豊かにするうつわを生み出していく。